被災地域の無形文化遺産

無形文化遺産とは?

  • 建造物や美術品など、形のある文化(有形文化)に対して、祭り行事や信仰、民俗芸能、様々な慣習、暮らしの技術など、形のない民俗文化を無形の民俗文化と呼びます。それは人の手を介してはじめて伝えられ、変化していくことを前提とした生きた文化です。
  • この無形民俗文化財を含め、次代へと引き継いでいくべき無形の文化を総称して無形文化遺産と呼びます。
無形文化遺産とは

岩手・宮城・福島沿岸部(三陸~浜通り)の無形文化遺産

  この地域には、様々な無形文化遺産が伝承されてきました。祭りや年中行事、そうした中で演じられる民俗芸能。あるいは日々の暮らしの中で伝えられてきた民俗技術。ことに三陸沿岸から福島県浜通り地方にかけては、民俗芸能の宝庫です。民俗芸能とは、特定の時期に、村内や神社・寺院など決められた場所で、地域の人々によって演じられる舞踊などを指す言葉です。本サイトの文化遺産マップでは、過去に各県の調査で名前が挙げられたものを中心に掲載していますが、その数は実に1,000件を超えています。

  試みに季節で分類してみると、まず夏と冬の芸能にわけて考えることができます。夏には「盆踊り」をはじめ、「鹿踊り」「剣舞」「念仏踊り」など鎮魂を目的とした芸能が多くみられます。
一方、冬は正月を中心として「獅子舞」「虎舞」「田植踊り」や巡業する「神楽」のように、その年の幸せや豊作・豊漁を願うものが多く演じられます。
そして春や秋には、こうした夏冬それぞれの芸能が一堂に会する祭りが多くおこなわれるのも、この地域の特色です。

  また地域別に分類してみると、江戸時代の南部藩領域(岩手県中部)と伊達藩領域(岩手県南部~宮城~福島北部)とで、大きく傾向が分かれることがわかります。
風土と歴史、そして人々の暮らしが育んだ無形文化遺産をどうぞご覧ください。

民俗芸能の分類

東北沿岸部の民俗芸能の実態にあわせ、本サイトでは便宜的に ① 神楽②シシ芸③田楽④踊り⑤音楽⑥祝福芸の6つの分類を採用しています。

※ 分類は必ずしも学術的な民俗芸能分類に即したものではありません。
※ 山車を中心とした行事については「祭礼・行事マップ」をご覧ください。
※ 情報が少ない文化財については、分類に誤りがある可能性もあります。
  お気づきの際にはどうぞご一報ください。

① 神楽





山伏
神楽
東北地方に分布する修験の山伏が伝えた神楽。岩手県下では主にこの名で呼ばれる。ダイナミックな舞が多く、また権現様と呼ばれる獅子頭を重要視する。
法印神楽 宮城県北部沿岸域を中心に、法印と呼ばれた修験者たちによって伝えられた神楽。様々な舞を演じる。多く組立式の舞台が用いられ、楽器は笛と太鼓。
南部神楽 岩手県南部~宮城県北部に分布する、山伏神楽をもとに娯楽性を高めた神楽。舞手がセリフを発するのが特徴。セリフ神楽、風流神楽などの名でも呼ばれる。




十二神楽 宮城県南部から福島県北部に多く分布する神楽。演目が12座あることからこの名で呼ばれる。基本的には太々神楽と同系統。
太々神楽 南東北から関東甲信越地方に広く分布する神楽。面を着け、黙劇スタイルで神話を演じる。江戸時代には、神職が演じるのが一般的であった。



巫女神楽 巫女による神楽。全国的には大きな神社などに附属して伝承されてきた。岩手県北部沿岸域では修験系の神子(みこ)が湯立託宣をする際に舞を舞った。
浦安の舞 昭和15年(1940)に作られた巫女神楽。全国の神社で舞われているが、地域の郷土芸能としての伝承形態を持つものもある。

②シシ芸





大神楽 伊勢・熱田で始まった獅子の神楽。獅子に2人以上が入るのが基本だが、時に1人で演じる舞もある。正月や祭礼に演じられ、曲芸を伴う場合もある。
権現舞 山伏神楽の権現舞が独立したもの。通常1人が獅子に入り、1人が外で幕を持って舞う。正月や祭礼に演じられる。
獅子舞 獅子頭を被って舞う芸能。2人以上が幕の中に入る。正月や祭礼に演じられる。全国に分布するが、地域によって独特な発展を遂げている。
虎舞 各地の沿岸部に多く伝わる、虎頭を被って舞う芸能。2人が幕の中に入る。正月や祭礼に演じられる。勇壮な舞振りが特徴。




鹿踊り 東北地方に分布する、鹿頭を被って舞う芸能。幕に入るのは1人で、8人など多人数で踊る。盆や祭礼に演じられる。
三匹
獅子
関東地方を中心に分布する、獅子頭を被って舞う芸能。1人が獅子に入り、3頭で踊る。祭礼に演じられる。

③田楽

田植
踊り
稲の豊作を祈る踊り。農耕の様子を演じる「田遊び」などが、東北地方では舞踊的に発展を遂げた。花笠などを被り賑やかに踊る。正月や祭礼に演じられる。
田楽
その他
平安時代より続く、稲の豊作を祈る踊り。びんざさらやすりざさらといった楽器が用いられる。獅子舞などが附属するものもある。

④踊り





七福神 七福神の扮装をする舞踊。全国的に存在するが、特に東北地方太平洋沿岸部に数が多い。正月や祭礼で披露される。
鳥さし舞 とりもちなどを用いて鳥を捕獲する様子を舞踊化したもの。かつて巡遊芸として広まった。福島県・新潟県以南、沖縄に至るまで分布が見られる。


の踊
盆踊り 盆に新仏供養、祖霊供養、悪霊鎮送などの目的で踊られる。8月盆に踊るものが多いが、東北地方では8月盆以降、9月にかけて踊る場合もある。
剣舞 岩手県~宮城県にかけて伝わる念仏踊りの一種。太刀などを持ち、激しく舞う。大別すると花笠などを被る念仏剣舞と、鬼面や鎧を着ける阿修羅踊り系がある。
念仏
踊り
盆などに、新盆供養を目的に演じられる踊り。全国的にみられるが、いわき市を中心に福島県浜通りには特に数多く分布する。鉦や太鼓をたたきながら踊る。

棒術 棒による打ち合いなど、棒を使った武術の演技が中心となる。棒ササラなどの名で、三匹獅子舞とセットで演じられるものもある。
風流 行列
風流
賑やかな囃子や華美な装束・化粧などで練り歩く行列。なお山車が中心となる行事については、「祭礼・行事」のリストで紹介する。
宝財
踊り
福島県の沿岸部に分布する踊り。伝説では北畠顕家の郎党が落ちのびる際に踊った踊りとされる。
その他
風流
祭礼や盆などに演じられる踊り一般。

⑤音楽

器楽 囃子 太鼓・笛・鉦など祭礼のための奏楽一般。宮城県北部沿岸には、数多くの太鼓を中心とした「打ち囃子」がある。
太鼓 太鼓の奏楽。
歌謡 民謡等。内容にあわせた踊りや振付がされている場合もある。踊りがメインのものは、踊り>風流>その他風流 に含めた。

⑥ 祝福芸

万歳 祝言を述べる役が年頭に家々を訪れ、ことほぎをする。
大黒舞 大黒、もしくは恵比須・大黒の扮装で舞う。年頭に家々を訪れ、ことほぎをする。祭礼などに登場する場合もある。

祭礼・行事の分類

 日本の無形民俗文化財は、民俗芸能・風俗慣習・民俗技術の3つの分野があります。このうち風俗慣習には、「生産・生業」「人生儀礼」「娯楽・競技」「社会生活(民俗知識)」「年中行事」「祭礼(信仰)」「その他」のジャンルがあります。本サイトでは「復興支援」という目的を考慮し、地域共同体の中でおこなわれ、外部からの見学や参加も比較的容易と思われる「祭礼」「年中行事」を取り上げたため「祭礼・行事」という呼称を用いました。
 分類については文化庁による祭り・行事調査テーマを参考に、東北地方太平洋沿岸部の実態を考慮し、下記に挙げる項目を選定しました。
 ただし本サイト掲載の祭礼・行事の中には、複数の分類に属する伝承もあります。しかし本サイトでは、便宜上、より顕著と思われる一つの分類に該当させています。したがって、一つの祭礼・行事が複数の分類に表示されることはありません。

年中行事

正月行事 正月におこなわれる行事のうち特色のあるもの(小正月の訪問者を除く)。
小正月の
訪問者
小正月(1月14~15日)を中心として、神に扮した者や子どもたちなどが家々を訪れる行事。
火祭り 大火を焚くことに特色のある祭礼・行事。特に小正月・盆行事に多く見ることができる。
火伏せ 防火を祈願しておこなわれる祭礼・行事。初午行事、社寺祭礼、芸能の巡回、講など様々あり春季に多い。
盆行事 盆におこなわれる行事のうち特色のあるもの(火祭りを除く)。
 年中行事
一般
正月と盆を除き、節供など年中行事として定期的におこなわれる行事のうち特徴的なもの。家単位の行事は除く。

祭礼

山車
巡行
山車・屋台などが巡行することに特色のある祭礼・行事。神輿に関しては特色がある場合のみとする。同行する「囃子」や「風流」は、民俗芸能を参照。
船渡御 神霊の渡御や芸能の巡行などに際して、船を用いることに特色のある祭礼・行事。
奉献
行事
鉾や旗など特色のある標示物や、特殊な神饌などを奉納する祭礼・行事。
競技
・占い
綱引・凧揚げ・相撲・競馬・船漕ぎ・弓射など特色ある競技を伴う祭礼・行事。また競技結果やその他様々な事象から占いを伴う祭礼・行事。
特殊
神事
湯立て・託宣など、特殊な儀礼を伴う祭礼・行事のうち、特色のあるもの。
田植
神事
農作業の様子を模擬的に演じるなどして、米の豊作を願う祭礼・行事。実際の田植えの時期におこなうものが多い。「田遊び」や「田植踊り」は民俗芸能を参照。
浜おり
・潮ごり
祭礼の折に、その巡幸行列が海岸部のお旅所などへ往復する行事。芸能が供奉することが多く、また海水に浸かって禊ぎをおこなう場合などがある。
裸祭り 褌姿などで参加する祭礼・行事。神宝を奪いあうもの、外を走るもの、水に入るものなどがある。正月を中心とした冬期と、夏期におこなわれるものとがある。
決められた日に特定の場所で開催される交易の場のうち、伝統的かつ特色のあるもの。生活物資を扱う市や、縁起物など年中行事に関するものを扱う市などがある。
産業・
観光祭り
産業振興や観光を目的としておこなわれる祭礼・行事のうち、地域の伝統的祭礼・行事に根ざしたもの。または民俗芸能など伝統的な伝承がみられるもの。
祭礼
一般
神社でおこなわれる祭礼、寺院でおこなわれる法要などのうち特色があるもの。神職・僧侶等のおこなう宗教儀礼が行事の大部分を占め、かつ地域性・独自性が薄いものは除く。

その他

講・ 参籠 特定の集団で神仏を祀る祭礼・行事のうち、特色のあるもの。公開されていることを前提とする。
人生儀礼 産育・成人・婚姻・葬送など人の一生に関わる行事のうち、地域の共同体でおこなわれ特色があるもの。

* 本サイトで取り上げる祭礼・行事は、あくまでも地域の共同体でおこなわれ、基本的には公開を前提としているものを対象とします。したがって、家族単位で行われる行事などは含みません。また、宗教者(神職・僧侶等)主宰の宗教儀礼が大部分を占め、かつ地域性・独自性が薄いものも除いています。