無形文化遺産とは
1. 日本における無形文化遺産とは
日本では、無形文化遺産にあたるものとして次の3つの分野があります。
(文化財体系図:文化庁のHPをご参照ください)
無形文化財
演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で、 我が国にとって歴史上 又は 芸術上価値の高いもの
無形民俗文化財
衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術で
…(中略)…我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの
文化財の保存技術
文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術または技能
2. 3つの分野の違いとは
無形文化財は、様々な無形の文化のうち、歴史的、芸術的にみて価値があると認められているものを指しています。代表的なのは、いわゆる古典芸能(能楽、人形浄瑠璃文楽など)や伝統的な工芸技術(備前焼や結城つむぎの技術など)です。
一方で「民俗」と名前が付く 無形民俗文化財は、人々の日常生活の中で生み出されたものを対象としています。歴史的、芸術的に価値が高いかどうかという点よりも、人々の生活のありかたを理解するため、また生活の移り変わりを理解するために欠かせないということが重視されます。無形民俗文化財には現在 ①民俗芸能 ②風俗慣習 ③民俗技術 の3つの分野があります。民俗芸能は地域に伝わる神楽や盆踊りなどの芸能、風俗慣習は祭りや年中行事など。民俗技術は民具製作の技術など、生活・生業に関わる技術を言います。
この無形文化財と無形民俗文化財はいわゆる「文化財」ですが、これら無形の文化財を含めたあらゆる文化財を保護するために必要な“わざ”を、文化財の保存技術と呼んでいます。たとえば祭りの山車を製作・修復するための技術や、和紙作りに欠かせない簾を作る技術などがこれにあたります。
3. 文化財の指定と未指定
これらの文化財のうち、特に国や県・市町村がその意義を認め、保護の必要があると認めたものは、次のように指定または選定されます。
無形文化財
国の指定 | = | 重要無形文化財 |
県・市町村の指定 | = | 無形文化財 |
無形民俗文化財
国の指定 | = | 重要無形民俗文化財 |
県・市町村の指定 | = | 無形民俗文化財 |
文化財の保存技術
国の選定 | = | 選定保存技術 |
県・市町村の選定 | = | 選定保存技術 |
ただし、文化財としての指定を受けていなくても、あらゆる無形の文化は無形文化遺産として、無形文化財、無形民俗文化財、文化財の保存技術のいずれかの分野に含まれる可能性を持っています。たとえば東北の沿岸部で現在も行われている鹿踊りや虎舞などの民俗芸能には、国や県・市町村による文化財の指定を受け ていないものが数多くあります。しかし、これがその地域の人々の「生活のありかたや生活の移り変わりを理解するために欠かせないもの」である以上、これは 無形民俗文化財と呼ぶことができます。
本サイトでは無形文化遺産のうちでも、特に指定・未指定を含めた無形民俗文化財(民俗芸能・風俗慣習・民俗技術)を主たる対象にしています。
※ なお、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産保護条約 第2条では、無形文化遺産の例として次の5つの分野を示しています。
(条文の日本語訳は外務省に依る)
「無形文化遺産とは、慣習、描写、表現、知識及び技術並びにそれらに関連する器 具、物品、加工品及び文化的空間であって、社会、集団及び場合によっては個人が自己の文化遺産の一部として認めるものをいう」
- 口承による伝統及び表現(無形文化遺産の伝達手段としての言語を含む)
- 芸能
- 社会的慣習、儀礼及び祭礼行事
- 自然及び万物に関する知識及び慣習
- 伝統工芸技術